石綿(アスベスト)関連疾患の労災の認定基準

 新しい労災の認定基準が、2003年9月19日付けで決定されました。大きな変更点は、

  1. 悪性胸膜中皮腫の石綿(アスベスト)曝露期間が1年と短縮された事(従来は5年以上) 
  2. 「心膜中皮腫」や「精巣鞘膜中皮腫」が追加された事
  3. 良性石綿胸水やびまん性胸膜肥厚が追加された事

 の3点です。

 悪性胸膜中皮腫は、労災保険による認定が受けやすい病気として知られています。多くが石綿(アスベスト)の吸入を受けた病気なのですから、当然かもしれません。1999年悪性中皮腫の認定25件不支給1件、2000年悪性中皮腫の認定35件不支給2件、2001年悪性中皮腫の認定33件不支給3件、2002年悪性中皮腫の認定55件不支給1件という結果です。この4年間に155件の手続きで、148件が認定され不支給は7件で、95,5%の方が認定されています。この数値の中には、私たちが相談・援助した例が相当数含まれています。ご本人とご家族のみで監督署に申請された後に、いくつかの点で行き詰まる場合も多く、事前に相談をされていたらと悔やまれるケースがままありますので、早めに中皮腫・じん肺・アスベストセンター(www.asbestos-center.jp)等に相談しポイントをずらさずに申請手続きを行われる事をお勧めします。

 認定基準をわかりやすく説明するために、厚生労働省がパンフレットを作成して関係者に配布しています。このパンフレットは、巻末のPDFファイルで御覧になれます。(PDFファイル)

 認定基準を一言でいうと、「悪性中皮腫の診断が明確で、1年以上の石綿(アスベスト)曝露があれば認定する方向を示している。」といえると思います。認定基準に関するポイントについて簡単にご説明します。

悪性中皮腫の病理診断の確認が必要な場合も増えています。

 悪性中皮腫の診断は10年前までは、複数の熟達した病理医が協議しながら決定する事もあった程難しいものでした。複数の免疫組織化学検査が開発された事と胸腔鏡で大きな組織を生検できるようになった事で悪性中皮腫の診断精度は飛躍的に高まりました。しかしながら現在でもまだご相談にのっている悪性中皮腫の方の病理診断が、中皮腫とするには不十分な場合があります。

 ご存知かと思いますが、みなさんが診断や治療を受ける主治医、とは別に患者さんから採られた肺や胸膜の標本を診断している病理医がいます。主治医の先生が「悪性中皮腫(疑い)」もしくは「悪性中皮腫」とし、病理医は「悪性中皮腫(疑い)、さらに追加調査が必要」と、病理(組織)検査結果報告書に記載している場合が、しばしばあります。「悪性中皮腫が疑わしいが、他の悪性腫瘍ではない」とまではいえない状態です。こうした事情が詳しく御本人やご家族に理解されていれば良いのですが、御本人やご家族としては「悪性中皮腫として説明を受けた」部分が強く残っている事も多いようです。病理(組織)検査結果報告書を御本人やご家族に配布する病院はまだ稀のため、その後の他の説明用紙や診断書に「悪性中皮腫」と記載されていると、なおの事そう受け止められがちです。「悪性中皮腫であれその他の悪性腫瘍であっても難治性で治療方法が同じだから」と主治医が考えられたり、追加検査自体のご本人の負荷を考え追加検査が実施されていない時もあるようです。

 労災申請後に病理診断の点で申請手続きが進まなくなる事がありますので、病理報告書での「悪性中皮腫」の診断を、労災申請前に確認することが大事な場合が増えています。標本が残っており、免疫染色等の追加検査が可能な事も多いものです。また現在ある資料のみで監督署が判断をする場合もあります。

<2> 石綿肺の管理区分は、省略できます。

管理区分と言って、じん肺法に基づく石綿肺の認定を行う様に書かれています。これはあくまで、「1/0以上の石綿肺がある場合に審査を簡略化する」ためのものです。実際には1/0以上の石綿肺(管理2以上)はない方に、悪性中皮腫や肺癌が合併する方が多いので、この用件を満たさずに認定されている人が多いのです。また主治医等が「石綿肺所見やじん肺所見がない」という場合には、担当者の判断でこの部分の審査の省略が可能です。いずれ胸部レントゲン写真やCT写真は、専門家にチェックされるのです。不必要に「都道府県労働局でじん肺審査をする様に勧める」担当者があるようですが、不要な検査や書類は省略しましょう。

<3> 胸膜肥厚斑や石綿小体がない悪性中皮腫の方も、労災認定されています。

というのは、石綿(アスベスト)曝露があれば胸膜肥厚斑が必ず伴うものではないからです。産業と曝露年代等によりますが、曝露を受けた人の20%程度に胸膜肥厚斑が出現する場合が多いからです(最大でも80%です)。極めて高濃度の石綿曝露が長期間あっても、曝露を受けた80%程度の人には変化は認められないのです。

 石綿小体も同様です。クリソタイルという石綿(アスベスト)のみ曝露を受けた方の場合に、石綿小体を形成しにくい事が知られています。アスベスト(石綿)の長期曝露があっても、胸膜肥厚斑も石綿小体もない人は案外多いのです。

 この間パンフレットで、「胸膜肥厚斑や石綿小体がない場合は本省協議」とされている部分を、「認定される事は難しい」と誤解されて、申請をあきらめたりした方や医師等のご相談が増えています。胸膜肥厚斑や石綿小体は石綿(アスベスト)吸入の明確な証拠のために重視されますが、悪性中皮腫の診断が明確で石綿(アスベスト)を吸入した職歴が明確に1年以上あれば認定されています。「本省協議」とういのは、「本省の職業病の認定に詳しい担当者と相談しながら行いますよ。」という事で、「協議の結果で認定される」事も多いわけです。

 何でもそうですが、前例のない方の場合は詳しい調査が行われます。ご本人の「同じ職種での認定がなく全国初めて」であったり、「その会社で初めて」の場合に、より詳しい調査を求められる場合があります。そうした方は是非ご相談をされながら、申請されないと不要な時間を要する場合が多いと思います。

 石綿(アスベスト)肺がんの場合は、悪性中皮腫と異なり喫煙との競合および相乗作用があるため、労災の判断において胸膜肥厚斑や石綿(アスベスト)小体の比重が高い実情があります。手術の肺の標本の追加調査や病理解剖が必要である事も増えてきますので、よく相談をして判断してください。