建設労働者とアスベスト

理事長 平野 敏夫

 ひまわり診療所は、「働く者のための診療所」ということで設立当初から労働災害・職業病の予防と治療、労災補償の取り組みを進めてきました。約26年前から、建設労働者の労働組合と連携してアスベスト(石綿)による健康障害の問題に取り組んでいます。アスベストはほとんどが輸入されていますが、その約80%が建材に使用されました。現在、アスベストは使用禁止になっていますが、過去に建設現場で多くのアスベストが保温、断熱、耐火、防音などの目的で使用され、多くの建設労働者が暴露されてきました。アスベストは発がん物質であり、肺がんや中皮腫(胸膜や腹膜に出来るがん)の原因になります。また、じん肺の一種であるアスベスト肺も発症します。このような職業病が多くの建設労働者(大工、電気工、左官、解体工、配管工など)を苦しめてきました。診療所には、アスベスト肺、肺がん、中皮腫などの被災者が、主に木曜日の名取医師の外来に通院しています。

 2008年、首都圏の約400人のアスベストによる被災者・遺族が国と建材メーカーを相手取って訴訟を起こしました。国は、アスベストの有害性を知りながら法規制をせず不燃・耐火の目的で使用を促進し、建材メーカーもやはり有害性を知りながら販売を促進してきたのです。国と建材メーカーの責任を明らかにし賠償を勝ち取るための訴訟で、その後、北海道から九州まで約1200人の原告が提訴しました。提訴以来、国と建材メーカーの賠償責任を認める地裁、高裁の判決が出され、今年5月17日に最高裁で4件の訴訟について国と建材メーカーの賠償責任を認める判決が出されました。一人親方についても賠償責任が認められました。メディアでも大きく報道され、5月18日には菅首相と厚生労働大臣が原告に謝罪しました。更に、継続中の訴訟についても統一した補償の基準で和解し、6月16日には「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が制定され、提訴していない被災者も同様に補償されることが決まりました。13年間にわたる原告の闘いが勝利したのです。

 これまでも経済成長が優先される中で、住民と労働者の健康がないがしろにされ、水俣病などの公害や労動災害・職業病の被災者が苦しんできました。被災者は厳しい裁判闘争などで補償を勝ち取ってきた歴史があります。アスベストは、安価で材質として非常に優れているので建材をはじめとして広範囲に使われました。結果として多くの被災者を出したのです。兵庫県の尼崎市では工場周辺の住民にも被害が出ています。

 診療所としても、引き続き、被災者の治療を行うと共に補償を勝ち取る闘いの支援を進めていきたいと思います。

笑顔の人間