ひらの亀戸ひまわり診療所
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2017年秋号 第100号

秋を過ごす

医師 名取 雄司

 ひまわり診療所に勤務して21年。人生の3分の1は、ひまわり診療所に勤務して過ごしたことになる。外来は木曜日1日だが、水と金曜日等に全国から依頼される建設業の石綿関連の胸部X線・CT写真を数時間かけて読影している。月4回は金・土・日曜に石綿関連疾患の診療が東京多摩地区から始まり北関東・東北を中心として全国に伺い10数年たった。また数か所の非営利団体を手伝っているので、週2回は夜に会議がある。

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 59歳の今年還暦を迎える「おじさん」だ。この夏「第二の仕事はハローワークで相談を、年金事務所・高齢者健診のご案内」のセットが役所から届き60歳を実感した。まだ電車で若者から席を譲られた体験はない。しかし「たれる、よごす、もらす」の老化現象は30年前から始まっていた。「たれる」の始まりは、30年前の朝病院外来診察中で人知れず放屁のつもりが、匂いが残り尻に水気が触れる。病棟に呼ばれたとして病棟脇の医局に戻ると「実」があった。下着を洗いドライヤーで乾燥15分後に何食わない顔で外来を再開する。人は身近の人の、何気ない苦労にはまず気づかない。ひまわり診療所の外来では「たらす」不祥事は起こしていないので安心して受診して頂き、決して近づいて匂いを嗅ぐことはお辞め頂きたい。最近居酒屋で飲んだ帰りYシャツに醤油が数か所大きく「たれる」ことを見つける。一緒に飲んでいた若い人は、私には言えなかったのだ。下の「よごす」話は、今回はやめておく。「たれる、よごす、もらす」は、「人の常」と考えたい。

 日本の都道府県は全て行かせて頂いたが、知らない体験も数多い。9月に香川の診療後に小豆島を案内して頂いた。感謝!「中山の棚田」は本当に綺麗で、石垣と水の工夫に数百年地域の人が受け継いだ伝統を感じる。農村歌舞伎の舞台は大きくて、佐渡島に多数ある能舞台を思い出す。石綿飛散事故以来お世話になっている佐渡。高い山中で夜開催された薪能は、鼓や笛と共に闇のかなたに自分が消えさるようで、佐渡に流された世阿弥以来の地域の伝統が息吹く。小豆島の宝生院の樹齢1500年のシンパクの生命力は、屋久島の杉に連なる。青森三内丸山遺跡、岩手北上川、山形月山と最上川、福島大玉村と安達太良山、栃木大谷石の石切場、茨城筑波山、鳥取倉吉と境港他、千葉銚子の太平洋。たくさんの絶景を見させて頂き、情のある人と出会い、食べ物に出会わせて頂いた。大陸プレートが4個ぶつかる世界で唯一の自然(火山と地震がある地域)の日本は、海に囲まれるゆえに、水と森とその恵みが豊富な土地だ。そこに暮らす多様な生命。東京も秋には鈴虫とコオロギともう一種類(?)が合唱している。

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 長男と長女の二人の子供も20代後半で仕事場の近くに移った。91歳の母が上の階に住み毎日2回ヘルパーさんのお世話になっている。私は朝母に顔をだし挨拶して家をでる。フルタイムで働く同年の連れ合いと二人で住む。私は仕事で遅く、酒も飲み、家事はわずかに手伝うだけで、良い人とはとても言い難い。趣味はほぼない、働き過ぎの「おやじ」。疲れた夜はTVの「お笑い番組」とNHKオンデマンドの「ドラマ」を見て疲れをとり、一つのアテとビールとワインを、チビチビと家飲みして過ごしている。

 東京の「酔いどれ」おじさんの「秋」は、こうして過ぎていく。

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